「失恋日記」からみる失恋の本質


                                               


「失恋日記」からみる失恋の本質

著者 柏木ハルコ
発売日 2013年5月8日

失恋日記(「別れる」)
彼を愛しすぎてストーカーになってしまう不安を持った彼女は、
自分自身の暴走を止め、愛する人と別れるために、
“恋愛感情を抑制する薬”を飲むことに決めた――――。(「別れる」)

女性誌に掲載されたレア作品6本を収録した恋愛短編集。

「別れる」

〈登場人物〉
猪狩(いかり)…彼氏の吉井が好きすぎて依存しすぎてしまう。
彼は、自分のことを100パーセント受け入れてくれるという
曲がった考えが強すぎてしまい、
ストーカーのような行動をしてしまう。
自分の感情を止めようとし、ある薬を飲んで吉井のことを忘れようとする。

吉井(よしい)…猪狩 の元彼氏である。
猪狩のストーカーのような行動に困っている。
猪狩とは反対に自分の感情を表に出さない性格である。

〈あらすじ〉
猪狩は、吉井に告白されて付き合い始めた。
なので、吉井は自分の全てを受け入れてくれると猪狩は信じていた。

吉井と付き合ううちに自分がこんなに、
感情のコントロールができない人間であることを知る。
自分のことを全て受け入れてくれない吉井に対して猪狩は、
イライラしてしまっていたのであった。

どうして自分を100パーセント理解してくれないの?と、
猪狩はいつも疑問を抱いていた。

そんな思いから、吉井に対してストーカーのような行動をとってしまっていた。
1日に50回も電話やメールをしてみたり、
吉井の働く会社まで押しかけてしまったり、
家まで行き不法侵入一歩手前の行動を起こしてしまったり…。

自分の気持ちを分かってほしいという気持ちからの行動であった。
吉井に「帰れ!」と、自分の気持ちをぶつけたり、
「行かないで」と、吉井を止め泣きながら
追いかけることも多々あったのであった。

そんな、猪狩に振り回される吉井は、困っていたのであった。

猪狩も吉井を傷つけてしまっていることを痛感していた。
このままでは、吉井を深く傷つけてしまうこともわかっていたので、
ある薬を飲むことにする。

その薬は、ストーカー対策のために開発された、
感情を抑制する薬であった 。

薬を飲んで吉井のことを忘れて、
新しい自分になって一歩を踏み出そうとしていたのであった。

薬を飲む前に、最後に吉井に抱いてもらうことをお願いする。
最後にベッドに入るも、愛情のないものであった。
別れるためでお互いに次に進むためのものであったから。

吉井は、泣きながら猪狩を抱いてたのであった。
吉井のしぐさや、表情から他に好きな人ができたと察した猪狩。

猪狩は、吉井が帰るのを引き止める。
最後くらい、笑ってほしいと吉井にお願いする猪狩。

しかし、吉井は笑えなかった。
吉井は、優しくて不器用な男だった。
少しずつ薬が効いてきた猪狩であった。

翌朝、薬の効いた猪狩の感情は…??
吉井の眼から見て猪狩は変わっているようには見えませんでした。

体の調子を聞くと、猪狩はなんだか体が軽くなったようだ、
相手のことを嫌いになるということではないようだと言います。

そして「別々の道を歩むことになってもアンタの幸せを願ってるよ」と背をむけ、
猪狩は歩き出すのでした。

 

「夫の失恋」

陽一郎と恵理は結婚8年目の夫婦。子供はありません。

ある日、陽一郎が深刻そうな顔をしてうつむき
「ごめん…他に好きな人ができた」と恵理に言います。
目を見開き、口が半開きになってしまう恵理。

お相手は職場の派遣社員で、
恵理より5つくらい歳上の40代の女性・植草さん。
恵理は、「人の心は縛れない」という考えの持ち主。
だから陽一郎には好きな人ができたら怒らないから教えて、
と伝えてありました。

陽一郎も、オレは浮気はできないから、
そういう時は本気だと思う、と恵理に言っていました。

不倫関係なのか、と聞けば陽一郎は「していない」
そういうことができる人間じゃないから、と言います。

それなら植草さんは陽一郎の事をどう思っているのか、
好きなのか、と恵理が聞くと、わからない。

自信がない、こういう場合、どうしたらいいと思う?
と恵理に聞いてくる始末。

夫の優柔不断さにキレた恵理は、植草さんに告白しろ、
と言って二人が逢っている所を隠れて観察することにします。

現れた女性は生き生きとした、
地に足をつけて生活している感じの人でした。
彼女を見て恵理は、自分にとっての宝物は陽一郎であること、
陽一郎に優しくしてこなかったことに気づきます。

泣きながら理恵は思う。
「神様 もしもう一度チャンスを与えてもらえるなら、
私は一生絶対に絶対に大切にします」
陽一郎が帰宅します。

恵理は、植草さんと3人一緒でもいいから、
ずっと一緒に居てと陽一郎に懇願します。
しかし陽一郎はそれにたいする返事はせず、外に出てしまいます。

後日来た植草さんの返事は、
「奥さんときちんと向かい合って話し合って、
それで合意の上で離婚ってことになったら、
あらためてプロポーズってことにしよう」というものでした。

理恵は陽一郎の考えを尊重しようとし、「別れてもいいよ」
と言い、決断を陽一郎に託します。

陽一郎は、そんな時でも答えを出さず、3年が過ぎてしまいます。
植草さんは他の男性と結婚。

結局愛想つかされたね、と理恵には言われますが、
実は陽一郎も、恵理を大切にしようと心に決めていたのでした。

 

「DIARY」

婚約者の広瀬弓絵を、結婚まであと一カ月という時に
事故で失ってしまった平野太郎。

彼女の部屋に残された日記帳には太郎の悪口がいっぱいでした。

「え 何だよそれ オレ…何かしたか?」と愕然とします。
葬儀に出ても素直に故人を悼むことができません。

葬儀場でピアニストである弓絵の双子の妹を見かけ、
太郎は突然、ピアノを弾く女性を弓絵と勘違いし、
「キリっとして別人のような美人」と
言ってしまったことを思い出します。

太郎はその女性を褒め続け、弓絵はひどく怒ってしまった…。
自分では気づかないうちに、弓絵を傷つけていたのかもしれない。

意を決して、太郎は押入れから出てきた弓絵の日記帳を読み始めます。

そこには妹へのコンプレックスをはじめとして、
弓絵のいろいろな思いがつづられていました。

太郎は弓絵のほんの一部しか知らなかったことに気づきます。

太郎は未だ聞いていなかった弓絵からの留守番電話があったことを思い出し、
再生します。そこには太郎への愛の言葉が残っていました。

 

他にもボーイッシュな先輩と後輩である中学生の、
恥ずかしくも真剣な初恋を描く「初恋ガーディアン」

徴兵を逃れホームレスになった漫画家と、
彼にまとわりつき、体を与えることで

食べ物をもらおうとする奇妙な共同生活と別れを描く
「えろちゃん」

研究者山田がブルマを通して考察する常識の作られ方を描いた
「憧れのブルマ」など。

6作品のそれぞれの女性の失恋をおさめた短編集。

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